ナミヤ雑貨店の奇蹟 (2017日本) [麦の日 後編]

映画公式サイトへ著作の映像化が相次ぐベストセラー作家=東野圭吾の小説の中でも「最も泣ける」と評されたのが、2012年に発表された「ナミヤ雑貨店の奇蹟」だそうですね。廣木隆一監督で、今年ついに映画化されました。原作では「再生」という題名だけの曲が、山下達郎によって「REBORN」として具現化までしました。でも、映画を見るまで、難解なメロディの渋い曲といった印象しか抱かなかった。

初めて聞いたのは、5月の山下達郎のコンサート。こんな地味な曲が映画の主題歌なの?というのが、その時の印象だった。公開が近づいてきて、人気シンガーソングライター・セリ役の門脇麦が劇中歌として歌っているMVを見て、どんな奇蹟が描かれているのか、俄然興味が湧いた。並みの映画主題歌とは違って、物語上とても重要な位置付けの曲だと分って、ようやく達郎がライブで説明していたことが理解できた。

実際、原作を知らないで観た方が、「もっと泣ける」んじゃないだろうか?ナミヤ雑貨店と児童養護施設・丸光園を結ぶ幾重にも張り巡らされた因果は、正に奇蹟と呼べるものだ。誤った情報から女性実業家の家に押し入った主人公の三人組(山田涼介・村上虹郎・寛一郎)までも、その因果の渦中に居た。読者に分り易いように、起点を1980年に設定して、「現在」に当たる2012年に作品を発表するという、東野圭吾のあざとさにも感服した。

一種の正義感から悪事を働いた19歳の青年達は、逃走に困って廃屋となった雑貨店に入り込む。しばらくすると、シャッターの小窓から、1980年からの手紙が、一通また一通と届く。三人組は、不気味に感じながらも、返事を書く。埃まみれの店内には、店の手掛かりとなる雑誌が、都合良く残っていたからだ。悩み事への回答は、店の外にある牛乳ボックスに入れるシステムだった。

本来の店主に代わって、彼等が書いた返事によって、相談者は確実に現在に繋がるものを残すことになる。あれっ?「グリーンリバー」さんのエピソードだけは、店主(西田敏行)が返事を書いたんだっけ?

小説だからこそ可能な、周到に練り上げられた奇蹟を映像化するのは、並大抵の事では無かっただろう。まず、基軸となる1980年と2012年という二つの時代の描き方。次に、各々のエピソードにおける登場人物の時代考証を踏まえたキャラクター作り。それに相応しい大勢のキャスティング。ピン・ポイントで描かれる途中の時期も含め、大局では上手く描いていたと思う。

冒頭、実在の地方都市をモデルに作り上げた1980年の町並みが、SunHero的には「Always 三丁目の夕日」とオーバーラップして、昭和50年代っぽくは見えなかった。それもそのはず、ロケ地は豊後高田市にある昭和30年代の町並みを再現した場所だそうだ。それでも、最初のエピソードに登場する「魚屋ミュージシャン」のトレーナーにジージャンという出で立ちは、SunHeroもそんな格好をしていたから、何となく納得してしまった。

否、時代を視覚的に描いた場合、顕著に分るのは女性のファッションだろう。この点は、1980年から2012年まで32年のスパンを一人で演じ切った尾野真千子の衣装や風貌が象徴的だ。NHKの朝ドラ「カーネーション」でも、主役を20代から50代まで演じていた。多分、終盤で夏木マリにバトンタッチする必要は無かったと思うんだけどね、オノマチの演技力なら(奈良県出身だけに!笑)。

さて、前半のハイライトは「魚屋ミュージシャン」のエピソードだろう。上映開始45分くらいで、MVとは異なる編集で「REBORN」のライブ・シーンが登場する。曲の誕生秘話をたっぷり見せられた後だと、セリの頬に一筋の涙がこぼれた瞬間、思わず目頭が熱くなった。

魚屋ミュージシャンが吹いていたハーモニカは、一般的なものより難しいクロマチックだ。ちょっとキザな持ち方をするけど、そうしないとバルブやレバーの操作は出来ない。映画で聞かれるように、哀愁漂う繊細な響きが奏でられるようになるには、普通は半年くらい掛るらしい。

ナント林遣都が実際に吹いているそうだ。こうなると完全にミュージシャンの域だ。でも、メロディがセリに受け継がれた時点ですら、歌詞が無い。魚屋ミュージシャンには、やはり音楽的才能が足りなかったようだ。

一方、セリのライブ・シーンには、違和感を覚えた人もいるだろう。事前に公式サイトで見たMVと、構成がほぼ正反対になっているのは面白かったが、劇中で急に海辺で独りバレエを踊るシーンに変わった時、なぜ?って感じたら、一気に白けちゃうよね。歌詞の奥深い意味に気付いていれば、一種の心象風景だと納得できるだろうけど、そこが評価の分かれ目かな?

それ以前に、門脇麦が歌ったり、踊ったりするのが意外だったかな?SunHeroは、彼女が高畑充希とW主演だったミュージカルを初日と楽日に見たし、竹野内豊と共演したガスのCMでバレエを踊るシーンも見ていたから、さほど意外には感じなかった。それでも、やはり主題歌を劇中歌としてフル・バージョン歌うシーンには、山下達郎の厚みのある歌声よりも、上手い下手とは違う次元で感動した。



中学までクラシックバレエを習っていたという門脇麦に相応しいCMでしょ!

彼女の子供時代を演じていたのが鈴木梨央。親のDVから守るため、丸光園に身を寄せていたという設定だ。ついつい2014年の「明日、ママがいない」を思い出してしまう。同じ類いの施設でも、園長の子供達に注がれる愛情で満たされていると、真逆の印象ですね。梨央ちゃん、あのドラマで主演だった芦田愛菜より一歳年下だけど、早生まれだったため同学年=もう中学生なんですね。

同い年と言えば、成海璃子と門脇麦。二人とも1992年8月生まれ。実は麦の方が少し早く誕生している。さらに、セリの同級生・映子役の山下リオも、同年生まれ。三人三様の芸歴が好対照でした。

特に、昭和初期のご令嬢という設定だった成海璃子の役は、素性が明らかになってくると、実は30年なんて短いスパンの物語じゃなかったんだと思い知らされる。物語を底辺で支える最重要な役どころで、西田敏行と堂々と渡り合う演技には、貫禄すら感じた。

一応、山田涼介主演ということだったけど、いつも三人で連んでいるばかりで、リーダー格だっていうだけで主役なの?と思っていたら、終盤にやっと主役らしいシーンが来るんですね。涼介ファンは、皆、あの涙に胸キュンキュンだったことでしょう。

とにかく、幾つものエピソードが折り重なる展開ゆえ、まだまだ沢山取り上げたい俳優はいるけど、最たる名演は西田敏行でしょう。店主・浪矢雄治という向こう側のアンカー無くしては、若手三人衆が軽い存在になってしまうから。そこが、東野圭吾の人物設定の妙(過去の老人と現在の若者という対比)なんでしょう。

そもそも、主を失って30年余り、ナミヤ雑貨店の建物が取り壊されること無く、廃れ行く商店街に残っている事こそが、本当の奇蹟だろう。あの30年という歳月なら、バブルの頃にでも、再開発とかで、町並みが一変していても、何の不思議も無いんだから。ちょっと感化され過ぎか?

というわけで、「門脇麦の日」、おしまい。

この記事へのコメント

  • SunHero

    ええじゃないか2さん、コメントありがとうございます。
    9年振り、大いに楽しんで来て下さい。

    もう一般発売も始まってしまったんですね。
    今のところチケット代が工面できず、スター・ウォーズでごまかしてしまうかも?(苦笑)
    2017年11月06日 14:36
  • ええじゃないか2

    一般発売で取れました。
    夜公演に行きます。
    クリコンは2009年以来ですので、楽しみにしています。
    2017年11月06日 12:09
  • SunHero

    ええじゃないか2さん、いつもコメントありがとうございます。
    トラックバックが廃止されても、「コメントバック」がある!と息巻いてましたが、一日当りの訪問客数も100人を切るようになりました。このまま奇蹟の起こらないナミヤ雑貨店みたいになってしまうのかもしれません(苦笑)。

    ところで、谷村有美さんのクリコン、今年は12/16だそうです。行けそうですか?
    2017年10月26日 18:46
  • ええじゃないか2

    山下達郎がらみネタ2つ目が来ましたね。
    たまに山下達郎も聞きます。
    日曜午後のあの番組もたまに聞いてます。
    2017年10月26日 14:47
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