
重厚感の増す「007」に対して、英国流のユーモアで残虐なシーンもコメディー仕立て。英国らしい小道具を使ったアクション・シーンは、スピード感がウリの米国産アクション映画に引けを取らない。「マトリックス」を連想させる場面転換や、「サンダーバード」を実写化したような秘密基地など、つゆだく特盛り状態なのに、盛り過ぎ感は全く無い。
しかも、予告編で主役と思わせておいた敏腕スパイが、本編ではまさかの結末を迎え、何処の国家機関にも属さないスパイ組織「キングスマン」の中心人物までが、敵の術中にハマってしまう。もはや正義は風前の灯火かと思ったところで、「マイ・フェア・レディ」の男性版のように、スパイ採用試験に落ちた青年が、父親譲りの機転を利かせ、悪徳実業家の世界規模の陰謀を阻止する。
伝統とハイテクが共存する今のイギリスを見事に描いて見せているが、その一翼を音楽が担っている事は、初っ端から英国のロック・バンド=Dire Straitsの“Money For Nothing”を用いている点からも明らかだ。同曲のPVを連想させるゲーム感覚の映像から実写映像に変わり、物語の発端となった古い事件が描かれる。
予告編で興味をそそられたシーンは意外に早く登場するが、本当の見せ場はその先にある。非常に用心深い悪徳実業家は、キングスマンの動向を察知して、逆に探りを入れてくる。表向きは紳士服の仕立屋であるKingsmanで、鉢合わせするシーンには、見ているコッチもゾッとした。だが、すかさず帽子屋を勧めて、仕返しに転じる。このテンポが、とても心地好い。
巨万の富を持つテロリストは、世界中の人々に無料で携帯電話を配布するが、タダより高いモノは無い。全人類を巻き込む前代未聞の陰謀の下準備だった。本来なら残虐なシーンになるはずだが、バックに流れる音楽は、K.C. & The Sunshine BandのK.C.のソロ名義で発表された“Give It Up”だ。殺し合いをコメディに仕立てたセンスは、従来のスパイ映画には無かった手法じゃないでしょうか?
狂気の企みが実行に移される直前に、敵陣に乗り込んだエグジーは、母親に年の離れた弟を別室に隔離し、施錠したら鍵を捨てるようにと電話し、母親は訳が分からぬまま言われた通りする。だが、その時が来ると、母親も豹変し、凶行に及ぼうとする。あのシーン、ジャック・ニコルソンの姿がオーバーラップしたのは、SunHeroだけではないはずだ。
計画に賛同した政治家や実業家や科学者たちは、難を逃れるために一堂に会し、実行に移された凶行の成り行きを、巨大スクリーンで文字通り「リアリティー・ショー」感覚で楽しむ。だが、Kingsmanが敵の技術を逆手に取って、ふざけた連中の頭が一斉に吹っ飛ぶのは、痛快で爽快だった。
あれを「リアル鬼ごっこ」調に描いたら、吐き気を催したかもしれない。コミカルな演出こそが、本作を「ミッション:インポッシブル」に引けを取らない娯楽作品として成立させた要因だ。
若年層が見ても、テンポの良さと英国らしいウィットに富んだ展開だけで、十分楽しめるだろう。だが、むしろこの作品は、SunHeroような熟年層の方が、もっと楽しめると思う。全編に散りばめられた往年の人気TV番組や名作の有名シーン、茶目っ気タップリな音楽の使い方など、完成したジグシー・パズルのように隙が無い。
SunHero的には、「サンダーバード」や「謎の円盤UFO」を連想させる所が、一番ツボにはまった。俺も護身用に“あの傘”が欲しいな~。Stingもこの映画を見たら、I want my umbrella~って歌い直したくなったかも?
この記事へのコメント
SunHero
「馬子にも衣装」というのは、エグジー君のことですよね?彼はいい意味で青臭い紳士振りだったと思いますよ。例えるなら、中学校の入学式の日に、初めてネクタイを締めて、制服を着た時のような印象でした。
ハリーが教会で瞬時に相手の動きを読んで身をかわしていたのに対して、単身敵陣へ乗り込んだエグジー君は危なっかしくて、ハラハラしながら見守ってしまいました。
ふじき78