
SunHeroが丁度洋楽を聴き始めた1973年、「やさしく歌って (Killing Me Softly with His Song)」が日本のラジオでも毎日のように掛かっていた。タイトルだけではピンとこない人でも、ネスカフェのCMに替え歌が使われていたので、メロディーを聞けば、きっと分かるはずだ。
Roberta Flackは、1937年にノース・キャロライナ州に生まれ、幼少期をバージニア州で過ごした。9歳でピアノに興味を抱き、後にコンクールで優秀な成績を収めて奨学金を得て、ワシントンDCのハワード大学で、声楽とクラシックを学んだ。
ところが、父親が亡くなったため、大学院を中退し、昼間は教師、夜はナイトクラブで働いて、生計を立てざるを得なくなった。ある時、声楽の恩師から、クラシックよりポップスを歌うことを勧められた。この路線変更が功を奏して、歌手として評判になった。
1968年に Atlantic Records のオーディションを受けて、1969年にアルバム “First Take”(随分と時代を先取りしていた?)でデビューした。32歳でのメジャー・デビューだった。しかし、Carole King もセルフ・カバーしている The Shirelles の全米No.1ヒット "Will You (Still) Love Me Tomorrow?" が、セカンド・アルバムから小ヒットした程度だった。
転機が訪れたのは1971年。Clint Eastwood の初監督作品「恐怖のメロディ (Play Misty for Me)」(1971年11月公開)に、デビュー作に収められていた「愛は面影の中に (The First Time Ever I Saw Your Face)」が効果的に使用されると、翌年アルバム・バージョンを1分ほど短くしたシングルが発売された。
この曲は、Billboard Hot 100 で6週連続1位を記録し、更に年間1位にも輝き、グラミー賞の最優秀レコードに選ばれて、一躍時の人となった。翌1973年には、前述の「やさしく歌って」が、通算5週1位を記録した。6週連続を阻んだのは、The O'Jays の "Love Train" だった。
余りにも早く1位になったため、ランクインしていた期間が短く、年間ランキングでは8位に甘んじる結果となった。しかし、グラミー賞では、2年連続で最優秀レコード賞を獲得するという快挙を達成した。
「やさしく歌って」は、日本でも同年末にいち早くペドロ&カプリシャスがカバーし、翌年には南沙織や尾崎紀世彦ら、多くの日本人歌手がカバーした。同曲の人気は衰えず、2002年には渡辺美里がシングルをリリースした。
恐らく極めつけのカバーは、2014年の平井堅のバージョンだろう。Roberta Flack 本人とのデュエットが、「Ken's Bar III」に収録されている。実は、SunHero、今日まで知らなかった。彼のコンサートには二度足を運んだが、二度ともステージの眺めが悪い席だったため、ファン熱が冷めてしまったからだ。
さて、1974年にも特大のヒットを期待したレコード会社に急かされて、とりあえずシングル 「愛のため息 (Feel Like Makin' Love)」を発売した。イントロらしいイントロも無く、もう少し続きがあるのでは?と思わせながら、不自然にフェイド・アウトしてしまう。
まともに聞くと、とても中途半端な仕上りだが、エアプレイ(ラジオ放送)ならフル・バージョンで流されることはまず無い。むしろ、ループにして延々と掛け続ければ、ウッテツケのBGMになりそうな楽曲だ。
それでも、前年・前々年の余勢か、辛うじて1週だけ1位に輝いた。ところが、同曲をメインに据えたアルバムがリリースされたのは、半年後のことだった。
折しも、カーペンターズもニュー・アルバムの制作に時間が掛かってしまい、A&M Recordsからの催促に、ベスト盤 “Singles 1969-1973” や 「イエスタデイ・ワンス・モア」を収録した “Now & Then” よりも前のアルバム “A Song for You” から、5曲目のシングルとして「愛は夢の中に (I Won't Last a Day Without You)」をカットした。
同年末には、ようやく新曲 "Please Mr. Postman"を発表したが、見事全米No.1に輝きながら、待望のアルバムは一向に発売日が決まらなかった。そこで、オリジナルの新曲 "Only Yesterday" を先行発売したが、アルバムのリリースを待たずにチャート圏外へ。後に Richard Carpenter は、Roberta Flackと同じ轍を踏んだと述懐していた。
彼女は2022年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、芸能活動からの引退を余儀なくした。病気が悪化して、ついに2月24日(現地時間)に死去した。謹んでご冥福をお祈り致します。
SpotifyはFree Planのため、ベスト盤をそのままプレイリストにしました。Flackの音楽性を知るには十分練られた内容だと思いますが、意外なヒット曲が漏れていたり、選曲の妙が窺える楽曲が抜けていたりすると感じました。そこで、Amazon Musicの方は、ベスト盤をベースに、プレイリストを大胆に変えてみました。如何でしょうか?

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