Jerry Mossには経営の才があった。Herb Alpertには売れる音楽を見いだす才があった。この二人が興したレコード会社が、1960年代にMotownと共に名を馳せたメジャーなインディペンデント・レーベル＝A&M Recordsだった。
Motownがシングル・ヒットの連発で会社を大きくして行ったのに対して、A&MはHerb Alpertが俄仕込みで結成したTijuana Brassのアルバムが次々に大ヒットして礎を築いた。特に1966年には、前年に発表した2枚のアルバムがアルバム・チャートのTop10に留まっていた上に、この年発売の2枚のアルバムまでがTop10入りするという、ビートルズでも成し得なかった快挙を達成した。
1970年代は二度のオイル・ショックを凌いだものの、1980年代後半には深刻な経営難に見舞わた。MotownがMCAに買収されたのと相前後して、Polygram（共に現Universal Music）に5億ドルで買収された。創業以前から縁故のあったRCAの傘下になるという話も進んでいたようだが、Polygramは買収後も創業者二人のポストを保証した。これが決め手となって、大逆転劇が起きたそうだ。
だが、Polygramもしたたかで、1992年頃、二人に違約金という名目で、2億ドルが追加で支払われた。引き換えにA&Mにおける全ての権限を失った。普通のサラリーマンならリストラに遭ったようなもので、ハッキリ言えば「手切金」だ。彼らは1994年、Almo Soundsという原盤制作会社を立ち上げ、Alpertの4枚のアルバムや無名アーティストのアルバムを発売した。
二人は、1997年に音楽業界への長年の貢献からNARASよりGrammy Trustees Awardを贈られ、1999年にはハリウッド商工会議所が設立したHollywood Histric Trustが管理運営するHollywood Walk of Frameにその名が刻まれた。Mossは1999年のAlmoの店仕舞いを機に、音楽業界から身を引いた。
2004年、MossはCalifornia Horse Racing Boardの委員に任命された。Moss夫妻はハリウッド競馬界で、競走馬の生産者・馬主として有名だった。2005年のKentucky Derbyの優勝馬＝Giacomo（父はHoly Bull！）はStingの息子の名前だったり、名前の由来は説明不要のZenyattaは2009 Breeders' Cup Classicで優勝したそうだ。ハリウッドのサブちゃん？
死因は明らかにされていないが、かなり健康を害していたようで、老衰死と思われる。今年1月14日に彼の長年の功績を称えた “Live at the Music Center: Concert Celebrating A&M Records Co-Founder Jerry Moss” が開催された。（真相は、2020年に個人としては最高額の寄付をしたことに対する、ミュージック・センターからの御礼コンサート）
さて、今年に入ってからも、著名なミュージシャンが相次いで他界している。とりわけ、この2ヶ月は立て続けの訃報に、随時取り上げる暇もなかった。不本意ながら、まとめて追悼いたします。
1月19日 David Crosby 81歳 Byrds, CSN(Y)
2月8日 Burt Bacharach 94歳 Composer, Arranger, Producer
3月14日 Bobby Caldwell 71歳 Singer-Songwriter
5月24日 Tina Turner 83歳 Singer, Actress
7月16日 Jane Birkin 76歳 Actress, Singer, Model, Mother of Charlotte Gainsbourg
7月26日 Randy Meisner 77歳 Poco, Eagles, Meisner,Swan & Rich
8月9日 Robbie Robertson 80歳 The Band, Film Music Composer
8月16日 Jerry Moss 88歳 Co-Founder of A&M Records
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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