
加えて、前作は、主人公のエグジーが不良青年から一人前のキングスマンに成長する過程も描いて、世界中の観客の共感を得やすいストーリーだった。本作は、英国と米国の国民性・文化的相違を、英国人の視点から皮肉タップリに描いている。どちらも所詮は異文化に過ぎない日本人にとっては、英国人の視点すらも客観的にしか受け止められず、感情移入する余地も無かった。
SunHeroは、初めから本作も前作もスパイ・アクション・コメディーとして捉えていた。娯楽性という点では、前作以上だと思った。前作より豪華なキャスティングには大いに期待したが、思いのほか出番の少ない方がいて、肩すかしを食らった感じだ。しかしながら、エルトン・ジョンの怪演振りには、大いに楽しませてもらった。それだけに、今年の9月にスタートするワールド・ツアーを最後に芸能活動を引退すると発表したのは、本当に残念なニュースだった。
エルトン・ジョンって誰?という世代には、前作同様に1970年代の英米のヒット曲満載も、麻薬密売組織ゴールデン・サークルのテーマパークのようなアジトも、ピンと来なかったかもしれない。それどころか、故ジョン・デンバーの代表曲「故郷に帰りたい」(Take Me Home, Country Roads)に至っては、日本ではオリビア・ニュートン・ジョンの「カントリー・ロード」の方が有名だろう。何しろ、今もフジテレビの夕方の報道番組「みんなのニュース」のお天気コーナー『上を向いて歩こう!』で、BGMとして使われている。
SunHeroが驚いたのは、映画でもジョン・デンバーのオリジナルは使われず、あろう事か出演者が仰々しく熱唱する場面が登場する。そこまでするか!と唖然とした。ジョン・デンバーの歌唱が聞けるのは、バーのシーンで流れる「緑の風のアニー」(Annie's Song)の方だ。歌詞にはアニーの名前が登場しないため、エグジーの切ない気持ちを代弁する見事な選曲となっている。
さて、なぜエルトン・ジョンが実名で出演しているのかと言えば、ジュリアン・ムーア演じるラスボス=ポピーが、彼の大ファンだからだ。何しろ、二頭のロボット番犬の名前は、ベニーとジェットだ。世界中の麻薬取引を牛耳って巨万の富を築くも、カンボジアの山奥に築いたポピーランドでの生活は退屈だ。そこで、彼を誘拐して、気晴らしに歌わせるという訳だ。
悪者なのに、妙に親近感の沸く役柄だ。エルトンの誘拐もマンネリ化してくると、堂々と祖国アメリカで暮らしたいという欲求が強くなる。そこで、麻薬とウィルスを使ってアメリカと取引するという、無茶苦茶な計画を実行する。日本でも大麻を合法化しようと訴えた女優さんがいたが、それが本作の着想に繋がっているのだとしたら・・・・何だかなぁ~?
更に無茶苦茶なのは、脅迫されたアメリカ大統領の対応だ。麻薬撲滅と人口抑制の一石二鳥とばかりに、ウィルス感染者を隔離するだけで、ゴールデン・サークルの要求には応じない構えだ。誰が見ても、某大統領のパロディーだ。そんな国の同胞に頼らざるを得なくなるというのも、痛烈な皮肉としか思えなかった。
話は変わって、冒頭から前作で死んだはずの人間が登場する。コリン・ファース演じるハリーが、いきなり登場する訳ではない。かつてキングスマンの候補生だったチャーリーだ。故プリンスの「レッツ・ゴー・クレイジー」をBGMに繰り広げられるカー・チェイス(?)で、いきなりハートを鷲掴みにされた。
のっけから面白いじゃんと思ったが、そこからアメリカの同胞ステイツマンを頼ることになり、記憶喪失ながらも生きていたハリーと再会し、ハリーが記憶を取り戻すまでが、どうにももどかしかった。しかも、ステイツマンの中に思わぬ伏兵がいた。ハリーはどうやって見抜いたのか、サッパリ分からない。というか、わざと種明かししないことで、ハリーのスパイとしてのカリスマ性を際立たせたかったのだろう。
同じスパイ映画でも、007シリーズやミッション:インポッシブルとは随分趣が違う。悪の乗りコメディー仕立てにすることで差別化を図りながら、実はそうした作品へのオマージュがふんだんに盛り込まれている。雪山のシーンやエグジーの結婚は、ジェームズ・ボンド役をジョージ・ レーゼンビーが演じた唯一の作品だった「女王陛下の007」を連想させる。エグジーとマーリンは、ミッション:インポッシブルでのイーサンとベンジーのような関係だ。
マシュー・ヴォーン監督、第三弾はどうなるんですか?
この記事へのコメント
ナドレック
エルトン・ジョンの怪演、良かったですね。
前作にもエルトン・ジョン出演の話はあったのだそうです。それがようやく実現したのですが、まさかこんな重要な(!?)役回りとは驚きました。
エルトン・ジョンは、ツアーはやめてもアルバム制作やミュージカルの作曲は続けるとのこと。これを機に俳優業に進出なんてどうですかね:)
ここなつ
弊ブログにご訪問&コメントをいただきありがとうございます。
エルトン・ジョンの弾けっぷりは凄かったです。決して嫌いな方ではないのでしょう。ジュリアン・ムーアも本作イイ味出していました。熟年女優と熟年歌手の貫録勝ちといったところかもしれませんね。