いち早く観た方々の評価が余り芳しくないキングスマン・シリーズ第二弾は、レイティングがR15+からPG12に緩められたことからも推測できた。一言で言えば、前作ほど過激な描写は無いということだ。すなわち、人類の未来を憂いて、強引に世界人口を削減するという前作の企てに比べれば、麻薬とウィルスでアメリカ合衆国を手中に収めようという本作の企ては、映像的にインパクトが弱い。
加えて、前作は、主人公のエグジーが不良青年から一人前のキングスマンに成長する過程も描いていた。世界中の観客の共感を得やすいストーリーだった。ところが、本作は英国と米国の国民性・文化的相違を、英国人の視点から皮肉タップリに描くことに、より重点を置いている。
どちらも所詮は異文化に過ぎない日本人にとっては、英米の差を笑える程の知識が無い。ただただ傍観するしかない。物語にのめり込む余地は無かった。ストーリー的に馴染めなかった人でも、コリン・ファースのファンなら、特に後半は楽しめただろう。
SunHeroは、初めから本作も前作もスパイ・アクション・コメディーとして捉えていた。娯楽性という点では、前作以上だと思った。前作より豪華なキャスティングには大いに期待したが、思いのほか出番の少ない方がいて、肩すかしを食らった感じだ。
しかしながら、エルトン・ジョンの怪演振りには、大いに楽しませてもらった。それだけに、今年の9月にスタートするワールド・ツアーを最後に芸能活動を引退すると発表したのは、本当に残念なニュースだった。
エルトン・ジョンって誰?という世代には、前作同様にふんだんに盛り込まれた1970年代の英米のヒット曲も、麻薬密売組織ゴールデン・サークルのテーマパークのようなアジトも、ピンと来なかったかもしれない。
それどころか、故ジョン・デンバーの代表曲「故郷に帰りたい」(Take Me Home, Country Roads)に至っては、日本ではオリビア・ニュートン・ジョンの「カントリー・ロード」の方が有名だろう。何しろ、今もフジテレビの夕方の報道番組「みんなのニュース」のお天気コーナー『上を向いて歩こう!』で、BGMとして使われている。
SunHeroが驚いたのは、映画でもジョン・デンバーのオリジナルは使われず、あろう事か出演者が仰々しく熱唱する場面が登場する。そこまでするか!と唖然とした。
ジョン・デンバーの歌唱が聞けるのは、バーのシーンで流れる「緑の風のアニー」(Annie's Song)の方だ。歌詞にはアニーの名前が登場しないため、エグジーの切ない気持ちを代弁する見事な選曲となっている。
さて、なぜエルトン・ジョンが実名で出演しているのかと言えば、ジュリアン・ムーア演じるラスボス=ポピーが、彼の大ファンという設定だからだ。何しろ、二頭のロボット番犬の名前は、ベニーとジェットだ。1974年の春に全米No.1に輝いたヒット曲 "Bennie & the Jets" に由来する。
世界中の麻薬取引を牛耳って巨万の富を築くも、カンボジアの山奥に築いたポピーランドでの生活は退屈だ。そこで、彼を誘拐して、気晴らしに特設ステージで歌わせるという訳だ。
悪者なのに、妙に親近感の沸く役柄だ。エルトンのショーもマンネリ化してくると、堂々と祖国アメリカで暮らしたいという欲求が、頭をもたげてくる。そこで、麻薬とウィルスを使ってアメリカと取引(deal)するという、無茶苦茶な計画を実行する。
更に無茶苦茶なのは、脅迫されたアメリカ大統領の対応だ。麻薬撲滅と人口抑制の一石二鳥とばかりに、ウィルス感染者を隔離するだけで、ゴールデン・サークルの要求には応じない構えだ。
誰が見ても、某大統領のパロディーだ。そんな国の同胞に頼らざるを得なくなるというのも、痛烈な皮肉としか思えなかった。
話は変わって、冒頭から前作で死んだはずの人間が登場する。コリン・ファース演じるハリーが、いきなり登場する訳ではない。かつてキングスマンの候補生だったチャーリーだ。故プリンスの「レッツ・ゴー・クレイジー」をBGMに繰り広げられるカー・チェイス(?)で、いきなりハートを鷲掴みにされた。
のっけから面白いじゃんと思ったが、そこからアメリカの同胞ステイツマンを頼ることになり、記憶喪失ながらも生きていたハリーと再会した。彼の記憶が戻るまでが、どうにももどかしかった。
これでようやく反撃に転じる態勢が整ったと思ったら、ステイツマンの中に思わぬ伏兵がいた。ハリーはどうやって見抜いたのか、サッパリ分からない。というか、わざと種明かししないことで、ハリーのスパイとしてのカリスマ性を際立たせたかったのだろうか。
同じスパイ映画でも、007シリーズやミッション:インポッシブルとは随分趣が違う。悪の乗りコメディー仕立てにすることで差別化を図りながら、実はそうした作品へのオマージュがふんだんに盛り込まれている。
雪山のシーンやエグジーの結婚は、ジェームズ・ボンド役をジョージ・ レーゼンビーが演じた唯一の作品だった「女王陛下の007」を連想させる。エグジーとマーリンは、ミッション:インポッシブルでのイーサンとベンジーのような関係だ。
さて、マシュー・ヴォーン監督、第三弾はどうするんですか?「キングスマン」を再興するのか?思い切って「ステイツマン」に乗り替えるのか?


この記事へのコメント
ナドレック
エルトン・ジョンの怪演、良かったですね。
前作にもエルトン・ジョン出演の話はあったのだそうです。それがようやく実現したのですが、まさかこんな重要な(!?)役回りとは驚きました。
エルトン・ジョンは、ツアーはやめてもアルバム制作やミュージカルの作曲は続けるとのこと。これを機に俳優業に進出なんてどうですかね:)
ここなつ
弊ブログにご訪問&コメントをいただきありがとうございます。
エルトン・ジョンの弾けっぷりは凄かったです。決して嫌いな方ではないのでしょう。ジュリアン・ムーアも本作イイ味出していました。熟年女優と熟年歌手の貫録勝ちといったところかもしれませんね。