2017年05月20日

Todd Rundgren - White Knight (2017 USA)

21世紀に入ってから、一人多重録音のパイオニア=Todd Rundgren(以下、「TR」と表記)は、Pro Toolsを駆使した、いわゆるEDM路線を邁進してきた。2010年代になると、機器の使い勝手を完全にマスターしたのか、新作のリリース間隔が4年から2年に短縮された。

すなわち、カバー・アルバムとは言え、EDM路線上だった“[Re]Production”(2011)、前々作“State”(2013)、前作“Global”(2015)と来て、今年(2017)も新作のリリース情報が伝えられた。同時に明らかになったのは、前例の無い多彩なゲスト・ミュージシャンとのコラボレーションだった。

一部のリリース情報で、「EDM作品が続いたトッド・ラングレンが、ブルー・アイド・ソウルに回帰した作品」と紹介されていたのだが、冒頭からバリバリのEDM楽曲が飛び出し、初めて聞いた時は、要らぬ情報に翻弄されて、困惑の連続だった。既に先行配信されていた"That Could Have Been Me"で、本作に顕著な特徴は披露されていたとは言え、何の予備知識も無く聞かされたら、誰の新曲か見当も付かないという楽曲が目白押しだ。

例えば、Donald Fagenと共作した"Tin Foil Hat"だけを聞かされて、Steely Danの新曲、あるいは、今夏来日予定のDonald Fagen & the Nightflyersのデビュー曲だよと言われたら、素直に信じてしまうだろう。従来のTRのソロ作には無かった有り様なのだ。

すなわち、今作の特徴は、以下の二点に集約される。
1)アルバムの半数の楽曲を、コラボ・アーティストと共作している
  (Track #2、3、6、8、9、11、14、15)
2)その曲だけを聞かされたら、容易にはTRの作品と分からない曲が多い
   ex.1 コラボ・アーティストの音楽性が全面に出た楽曲(Track #2、6、7、11)
   ex.2 TR自身が全く歌っていない楽曲(Track #5、6、10)

ビートルズをはじめ、先人の楽曲をカバーしたり、豪華ゲスト陣を迎えて制作された楽曲なら、過去にもあるにはある。だが、どこを切っても金太郎飴という、TRのキャラクターが際立った仕上がりの楽曲ばかりだった。今作は、かつて例を見ないほど、真逆のアプローチ=没個性的な曲が並んでいる。

1990年代にRockに取って代わって、ポピュラー・ミュージックの主役に躍り出たHip-Hopでは、サビの部分をフィーチャリング・シンガーに歌わせたり、ゲスト・ラッパーが相互に客演したりして、楽曲のメイン・パーソナリティーが誰なのか、アーティスト名を確認する必要があった。21世紀になって、そうしたスタイルが他のジャンルに派生し、広く定着した。TRもそんなコンテンポラリー(今日的)なスタイルを目指したようだ。

一人宅録のパイオニアとして、常に時代の一歩も二歩も先を進んでいたTRも、1990年前後には大所帯のバンド編成でレコーディングを行ったり、直後にはニュー・テクノロジー(CD-i)にいち早く迎合するなど、振幅の大きい活動を展開し、従来からのファンの多くは失望したと思う。

もはや自己の内面からほとばしるオリジナリティーよりも、外的要因に依存した音楽制作をするようになったからだ。なりふり構わず時代の最先端に居続けようとする姿を、時代に追いつかれたとか、単に見苦しいと感じた評論家やファンも多かった。

だから、2004年の“Liars”を起点とするEDM路線は、“Arena”(2008)を経て、21世紀型TRの音楽スタイルが、加速度的に構築されていく印象を受けた。同時に、新作発表の都度、アルバム全体のカラーリングを変えることで、良く言えばEDMの可能性を広げ、毎回少なからず困惑させられた。「困惑」こそ、TRのめまぐるしく変化する音楽を、ワン・ワード(笑)で象徴していると言えよう。

だが、従来の違和感が16ビットなら、今作では24ビット級の、拒絶反応に近い衝撃を受けた。前述の二点は、TRのソロ作では暗黙の内にタブーと見なしていたからだ。時代に追い越されちゃったから、つい掟破りな行為に出たのだろうか?

ただ、「ラしくない」曲の方が、遊び心満載で楽しかったりする。かつてJoe Jacksonとジョイント・ツアーを行なった後、次のジョイント候補に挙がったのが、Donald Fagenだった。TRの会員制有料サイトで、共同制作中の楽曲が披露されたことがあったそうだが、アルバムやツアーという形で結実することは無かった。だから、経緯を知らない諸氏には、信じ難くて、興味深い、奇跡のコラボに思えたことだろう。

そして、「ブリキ箔の帽子」が揶揄しているのは、トランプ大統領のことだ。ネット検索をしても、なかなか的確な解説をしているサイトが見つからない中、"tinfoil hat"の意味を比較的判り易く述べているサイトがあった。日本語訳は、政治的な配慮でもあったのか(笑)、そうとは分からないモノになっている。

それから、前述のリリース情報にあった「ブルー・アイド・ソウルへの回帰」は、全く的外れだ。リード・ボーカルに黒人シンガー(John Boutte、Bettye LaVette)をフィーチャーしている以上、白人を意味するBlue-Eyedどころか、完全に黒人音楽の領域に踏み入っているからだ。“Nearly Human”(1989)でも、Bobby Womackをゲスト・ボーカルに迎えていたが、Bobbyが歌っていたのは、ほんのワン・フレーズの繰り返しだけだった。所詮は黒人のようには歌えないと、開き直ったのだろうか?

さて、全世界なのか、日米だけなのか、ともかく同日(5/12)発売となった、2年振りのニュー・アルバム“White Knight”は、「白夜」ではなく「白騎士」だ。正確には「白馬の騎士」を指す言葉だが、転じて「救世主」という意味合いもあるそうだ。世界規模で何かが狂いだした今日、自ら白馬の騎士になるつもりなのだろうか?

何しろ、アルバム発売に先駆けて、4/29にスタートしたプロモーション・ツアーは、Chivalrock Tourと言うそうだ。chivalryが騎士道という意味の名詞、その形容詞がchivalricで、まるでどこかのブログの名称のような発想で、chivalrockという造語を考案したようだ。

先日の述べた通り、TRの公式サイト=ToddStoreで、Pre-Sale Order受付中だったので、奇跡のDVD化作品と一緒に注文した。5月3日に発送通知が来て、5月10日に届いた。Pre-Sale特典として、ジャケット・アートを模したステッカーも同梱されていた。これこそ本当のフライングゲット(和製英語の極致!)だ。

案の定、輸入盤のジャケット・リーフレット(六つ折り・表裏十二面)には、全曲の歌詞は印刷されているが、詳細なクレジットの記載は無い。馴染みのベテラン勢ならまだしも、KK Watson、Dâm-Funk、John Boutte、Michael Holman、Bettye LaVette等、(単にSunHeroにとって)馴染みの無いアーティストは、国内盤の日本語解説に頼らざるを得ない。だが、筆者には申し訳ないが、国内盤の解説には然したる特ダネ情報も無く、アーティスト名でネット検索した方が、遙かに多くの(SunHeroにとっては)新事実が入手できた。

ただし、国内盤も買ったからこそ、良かった点もある。ボーナス・トラックの「ワン・ワールド」が、本編からイイ感じで繋がっていた。それもそのはずで、2015年の“Global”ツアーでは、本作2曲目で共演しているDâm-Funkが同行していた。もう2年も前から、本作に連なる構想は、準備されていたという訳だ。ということは、昨年Todd Rundgren, Hans-Peter Lindstrøm, Emil Nikolaisen名義で発表されたElectronicaな“Runddans”も、本作への途中経過だったのかもしれない。

ちなみに、最も興味を引かれるコラボレーターと言えば、Rebop Rundgrenだろう。その姓から明らかなように、TRとMichele Gray(モチロン旧姓。元Tubesのシンガー兼ダンサーで、TRと結婚後はコメディアンヌとして活躍していた時期もある)との間に生まれた息子だ。いわゆるサブカルチャー系と思われるアーティストをプロデュースして、生計を立てているようだ。確実に父親の血を受け継いでいるが、プロデューサーとして大成するのだろうか?今後の活躍に期待したい。

最後に、前作では実現しなかった来日公演、本作ではどうなるのだろうか?秋以降のツアー・スケジュールは未定だから、年内来日の可能性に期待したい。
posted by SunHero at 04:18| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | CD紹介(欧米) | 更新情報をチェックする
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