獣は月夜に夢を見る [Når Dyrene Drømmer] (2014 デンマーク・フランス R15+)

beast-dream-moonlit-night_poster.jpgラース・フォン・トリアー監督の美術アシスタントをしていたヨナス・アレクサンダー・アーンビー(Jonas Alexander Arnby)が、初めて監督した長編映画が「獣は月夜に夢を見る」だ。長編と言っても、90分に満たない作品で、ホラー・ミステリーという分類だが、映画の宣伝文句そのままに「恐ろしくも美しく儚い」映画だ。

何と言っても素晴らしいのは、本作が主演デビューのソニア・ズー(Sonia Suhl)が、宣伝文句を見事に体現していることだ。ホラーが苦手なSunHeroも、序盤こそ謎だらけで、不気味さにビビっていたが、主人公の持って生まれた哀しい宿命が明らかになってくると、すっかり感情移入してしまい、最後には感動で胸がいっぱいになった。

原題を英訳すると、“When Animals Dream”となるそうだ。直訳すれば「動物が夢を見る時」だが、恐らく原題で動物を表す言葉には、「動物」と「獣」(“animal”/“beast”)の区別は無いのかもしれない。邦題を付けた人(達)は、ちゃんと映画を見た上で考えたと思われる。「月夜に」を付け加えたことで、タダ怖いだけのホラー映画では無いことを暗示している。上手い邦題だ。

物語の舞台は、北欧のどこにでもあるような漁村だ。親子3人暮らしをしているマリーは、幼い頃から病気の母を村人が訝しむのを不思議に思っていた。工場で働き始めたマリーも、同僚からしばしば嫌がらせをされた。妻を献身的に看病する父親に尋ねても、まともに取り合ってくれない。

ある日、身体の異変に気付いたマリーは、長年母親を診察・治療している医師に診てもらう。医師は父親に母親と同じ症状が出始めている事を伝える。真実を教えてくれなければ治療はしないと拒んだマリーに、医師が父親の手を借りて、無理に注射を打とうとした時、事件が起きた。一日中車椅子の母親が豹変して、医師を襲ったのだ。

医師が失踪したことで、村人の疑惑の目はマリー達に向けられる。やがて、マリーの身に危険が迫り、職場で知り合った漁師のダニエル(ヤコブ・オフテブロ:Jakob Oftebro)に助けられる。マリーは自分の身体に起きた異変を、ダニエルに打ち明ける。互いに惹かれていた2人は、ある決断をする。

北欧の伝説には、火を吐き空を飛ぶ竜がツキモノだが、母親からの遺伝性の病気には、竜のDNAが関係している感じでは無い。それでも、マリーの母親の家系には、何か人間以外の動物のDNAが影響しているようだ。それが何なのか、映像で仄めかすだけで、真相は完全には明かされない。これはもう、ホラー映画の形を借りた悲恋物語だ。

ダニエルの覚悟は、命懸けの愛だ。SunHeroには到底真似できない。洋画と言えば、アメリカ産が占める日本で、よくぞ上映してくれたと感謝したい。わざわざシネ・リーブル池袋まで観に行った甲斐があった。

まだこれから上映になる映画館もあるようなので、ご興味のある方は公式サイトの劇場情報をご確認下さい。

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「獣は月夜に夢を見る」
Excerpt: 怖くて哀しいオハナシ。冒頭から映し出される北欧の漁村の風景があまりにも美しいのだが、その美しさが閉鎖性のある村の棘を想起させる働きをしていると思う。このタイトルからして充分に想像しなければならないはず..
Weblog: ここなつ映画レビュー
Tracked: 2016-06-14 23:45

【映画】『獣は月夜に夢を見る 』家族の秘密は村の秘密
Excerpt:    獣は月夜に夢を見る(2015)デンマーク/フランス 原題:Nar dyrene drommer/When Animals Dream 監督:ヨナス・アレクサンダー・..
Weblog: アリスのさすらい映画館
Tracked: 2016-06-26 02:47

獣は月夜に夢を見る
Excerpt:  自分が人間でないものとしってしまった少女を主人公に、いかにも北欧的な、静謐で濃密なホラー。自分が父親だったらどうしただろうという視点から見ていました。ネタバレありの感想です。  作品情報 2014..
Weblog: 映画好きパパの鑑賞日記
Tracked: 2016-06-26 06:34
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