
何と言っても素晴らしいのは、本作が主演デビューのソニア・ズー(Sonia Suhl)が、宣伝文句を見事に体現していることだ。ホラーが苦手なSunHeroも、序盤こそ謎だらけで、不気味さにビビっていたが、主人公の持って生まれた哀しい宿命が明らかになってくると、すっかり感情移入してしまい、最後には感動で胸がいっぱいになった。
原題を英訳すると、“When Animals Dream”となるそうだ。直訳すれば「動物が夢を見る時」だが、恐らく原題で動物を表す言葉には、「動物」と「獣」(“animal”/“beast”)の区別は無いのかもしれない。邦題を付けた人(達)は、ちゃんと映画を見た上で考えたと思われる。「月夜に」を付け加えたことで、タダ怖いだけのホラー映画では無いことを暗示している。上手い邦題だ。
物語の舞台は、北欧のどこにでもあるような漁村だ。親子3人暮らしをしているマリーは、幼い頃から病気の母を村人が訝しむのを不思議に思っていた。工場で働き始めたマリーも、同僚からしばしば嫌がらせをされた。妻を献身的に看病する父親に尋ねても、まともに取り合ってくれない。
ある日、身体の異変に気付いたマリーは、長年母親を診察・治療している医師に診てもらう。医師は父親に母親と同じ症状が出始めている事を伝える。真実を教えてくれなければ治療はしないと拒んだマリーに、医師が父親の手を借りて、無理に注射を打とうとした時、事件が起きた。一日中車椅子の母親が豹変して、医師を襲ったのだ。
医師が失踪したことで、村人の疑惑の目はマリー達に向けられる。やがて、マリーの身に危険が迫り、職場で知り合った漁師のダニエル(ヤコブ・オフテブロ:Jakob Oftebro)に助けられる。マリーは自分の身体に起きた異変を、ダニエルに打ち明ける。互いに惹かれていた2人は、ある決断をする。
北欧の伝説には、火を吐き空を飛ぶ竜がツキモノだが、母親からの遺伝性の病気には、竜のDNAが関係している感じでは無い。それでも、マリーの母親の家系には、何か人間以外の動物のDNAが影響しているようだ。それが何なのか、映像で仄めかすだけで、真相は完全には明かされない。これはもう、ホラー映画の形を借りた悲恋物語だ。
ダニエルの覚悟は、命懸けの愛だ。SunHeroには到底真似できない。洋画と言えば、アメリカ産が占める日本で、よくぞ上映してくれたと感謝したい。わざわざシネ・リーブル池袋まで観に行った甲斐があった。
まだこれから上映になる映画館もあるようなので、ご興味のある方は公式サイトの劇場情報をご確認下さい。
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