オデッセイ [The Martian] (2015 USA)

映画公式サイトへリドリー・スコット監督の作品と言えば、「エイリアン」とか「ブレードランナー」をVHSのレンタルで見た程度だ。後は大抵TVだ。前述の2作も含め、「ブラック・レイン」やアカデミー作品賞を受賞した「グラディエーター」もそうだ。だが、いずれの作品にも馴染めなかった。詰めが甘いというか、どこか釈然としないストーリー展開に思えたからだ。理解できないけど面白いという映画もあるが、"In Between"としか感じられなかった。

特に、主演=ハリソン・フォード、音楽=ヴァンゲリスという事だけで見た「ブレードランナー」は、脱走したレプリカントの人数が変わってしまうという、重大なミスを犯してしたまま公開されてしまった。それが後々カルト的ファンから絶大な支持を得る事になるのだから、本当に不思議な映画だった。「エイリアン」にしても、H・R・ギーガーの造形物が優れていただけで、監督なんて誰でも大ヒットしたと思う。

そんなSunHeroが、リドリー・スコット監督作品とは知らずに、初めてスクリーンで見たのが「プロメテウス」だった。冒頭の異星人が地球に降り立った後の展開からして、もう訳が分らなかった。大抵は映画を見終えるまでに、あれはこういうことを示唆していたのかな?と思えてくるものだが、未知の生命体の存在を確かめるために、地球外へ飛び立っていった所で終わってしまった。続編ありきかと分っても、見たいという気持ちは湧かなかった。

そういう訳で、本作「オデッセイ」も、監督の名前を見て、見たい映画の候補から外した。宇宙空間に独りぼっちなら「ゼロ・グラビティ」、地球から遠く離れた場所で生還の希望を絶たれるなら「インターステラー」、火星が舞台なら「ジョン・カーター」を見たから、もう十分だとも思った。

ところが、何だかウェブ上で色々な方々の感想を拝見して、チョロチョロとネタバレをしながら、異口同音に感動したと評するんで、だんだん興味が湧いてきた。断片的なネタバレがどう繋がって行くのか、勝手に妄想していたら、気持ちが暴走して、TOHOシネマズ新宿へIMAX・3D版を見に行ってしまった。

TOHOシネマズ新宿のIMAXシアター(スクリーン10)IMAX用の3Dメガネは、通常のTOHOシネマズのロゴ入りメガネとは別物なので、メガネ代が100円掛かるが、一度手に入れてしまえば使い回しが利く。IMAX版だけ未体験だったTOHOシネマズ新宿のウリも完全制覇だ。ところが、パンフレットは品切れだった。帰り掛けに気が付いて、新宿ピカデリーへ向かったが、売店はTOHOシネマズより1時間早い21時閉店だった。

パンフレットが欲しいと思う程、映画は面白かった。科学的考証はあれでいいの?と思う箇所は幾つもあったが、絶望的な状況でも何とか打開しようと、次々に知恵を絞り出す主人公の姿に引き込まれて、大して気にならなかった。むしろ、怠惰な生活を送っているSunHeroには眩しかった。大いに反省を促されたが、そんな高揚した気持ちも、翌朝目が覚めたら冷めていた。(全然ダメじゃん!)

興醒めという点では、一面砂漠だらけの火星で、探査隊のベースキャンプや、地表を移動する車両が小さく映し出されるシーンは、あからさまにミニチュア・モデルを使っているとしか思えなかった。特に、主人公が別地点にある脱出用ロケットへ向かう途中の光景は、CGの背景にジオラマの砂漠、その上を重量感のない車両が、プラレールの電車のようにトコトコ進んでいく感じだった。IMAXという高画質上映だったから露呈した粗だったのかもしれない。

逆に白々しい演出だとは思いながらも、つい感動してしまったのが、船長自らが船外へ飛び出して、主人公をキャッチするシーンだ。きしめんのように幅広のオレンジ色のロープが、二人をリボンで飾るように取り囲むところは、安堵感と感動の再会に華を添える美しいシーンだ。そのうち、ISSでもロボット・アームは使わず、直接人間がキャッチするようになるかもしれない。その際、命綱の色が同じ色だったら、一人ほくそ笑んでしまうだろう。

David Bowie / Starman [Limited Picture Single] sorry: selloutさて、SunHero的には、音楽の使い方にも、思わずほくそ笑んでしまった。1970年代の洋楽が、SunHeroのストライク・ゾーンだったからだ。歌詞の意味は分らなくても、大意やタイトルを知っているだけで、シーンに合った選曲なんだろうなと察してもらえたら十分だ。特に、火星と言えば故David Bowieだが、案の定“Starman”が流れてきたら、自然と涙腺が緩んできた。

でも、この映画に最も相応しい楽曲は、絶対にElton Johnの“Rocket Man”だ。火星に一人取り残され、食料も全然足りない。絶望的な状況で、なぜこの曲を使わなかったのか?敢えて使わなかったのか?許可が下りなかったのか?チョット残念だった。だって、2番の歌詞では、モロに火星の環境が歌われているからだ。

映画「オデッセイ」挿入楽曲集その他、The O'Jaysの“Love Train”(1972)、Thelma Houstonの“Don't Leave Me This Way”(1977)、Gloria Gainerの“I Will Survive”(1978)、故Donna Summer“Hot Stuff”(1979)は、いずれも1970年代に全米No.1に輝いたヒット曲だから、1980年代以降生まれの若年層でも、多分どこかで耳にしたことがあるんじゃないだろうか?

数多のディスコ・サウンドの中で異色だったのが、ABBAの「恋のウォータールー」だ。英語発音だと「ウォータールー」だが、フランス語発音だと「ワーテルロー」だ。ナポレオン・ボナパルト(仏皇帝ナポレオン1世)が英蘭連合軍に大敗した戦いとして有名だが、この曲は「ナポレオンはワーテルローで降伏したけれど、恋の駆け引きは負けるが勝ちってこともあるかもね」という内容だ。あのシーンに何でこの曲なのか、意図が全く分らなかった。

それから、原題の「Martian」は火星の英語名「Mars」に由来する言葉で、原作本の邦題は「火星の人」となっているが、直訳すれば「火星人」だ。火星に取り残されてしまった地球人が、火星の環境に順応して、地球に生還するために生き抜こうとする物語だから、「The Martian」なのだ。定冠詞が付くことで、本物の火星生物では無く、何か特殊な火星人という意味になる。逆に定冠詞が無いと、こうなる。(右図参照)

邦題を付けるのに、出版時も映画公開準備の際も、相当苦心したと思うが、SF映画だから「2001年宇宙の旅」の原題から一語拝借しちゃったのは、見事でしたね。ただし、「オッセイ」じゃなくて、「デュスィー」の方が正しい発音(άdəsi)に近い表記だ。ウクライナにオデッサ(odessa)という都市があるし、モロにodysseyというホンダのクルマもカナ表記だと「オデッセイ」だし、見た目の印象も良いから「オデッセイ」に決めたのだろう。こうして、またひとつ、日本の英語教育は歪められていくのだった。

この記事へのコメント

  • ふじき78

    レプリカントの人数云々の違いとかは全く覚えてないのですが、原作から引き継いでハリソン・フォード自身が自分が人間であるのか、レプリカントであるのか確信が持てないという設定があったかのように思えます。
    ともかく私は古い映画を見返さないんで記憶はかなり曖昧なんですが、いやあ、リドリー・スコットは最近のは別として、「エイリアン」や「ブレードランナー」の絵は他の人では作れない気がします。宇宙船内部をキラキラした物でなく、単に水上船の延長みたいにくたびれた撮り方をしたり、無茶苦茶、湿度の高い鬱蒼とした未来都市を撮ったりってのは多分リドリー・スコットが初めてだから。快適ではないけど浸れるんですよね。
    2016年03月10日 22:52
  • SunHero

    ふじき78さん、スマホでコメントが確認できなかったので、帰宅してから管理画面をいじってみました。ちゃんと表示されるようになったと思います。

    さて、両作品とも大人向けのSF映画のパイオニアというのは分っているつもりです。SunHeroが言いたかったのは、監督の作風に馴染めなかったということです。

    本文にも書いた通り、「エイリアン」は他の監督でも十分ヒットするということは、以降のシリーズ化で実証されています。リドリー・スコット自身も誰が撮っても同じだと思ったから、1作で下りちゃったんじゃないでしょうか?

    むしろ、監督としてやりがいを見出したのは、「ブレードランナー」の方だと思いますが、結果的に二回も観てしまいました。結局、もう一人のレプリカントは誰なんですか?

    今回初めて、夢のあるSF映画だと感動しました。
    2016年03月09日 02:24
  • ふじき78

    「エイリアン」も「ブレードランナー」もリアルタイムで観ていますが、その当時を考えると凄い映画なんですよ。この時代SF映画と言ったら、子供が見るような幼稚な物と言う認識だったんです。それを有無を言わさず大金を使って大人向けに作った。ちゃんと大人の観客が見に来た。パイオニアな映画です。これがベースになってしまったので、今、見ると退屈かもしれないけど。
    2016年03月09日 00:16

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