Jefferson Airplane(以下「JA」)は、1965年にサンフランシスコで結成された。DoorsやGrateful Dead等と共に、1960年代後半のアメリカに登場したサイケデリック・ロックを牽引した。Great Societyから引き抜いた二代目女性ボーカリスト=Grace Slickの前バンド時代からのレパートリーだった”Somebody To Love”、”White Rabbit”が立て続けにヒットして、サイケデリック・ブームの先陣を切ったが、時代の頂点を極めたのは、後からデビューしたDoorsの方だった。
1970年代中頃にブルース指向の強いメンバーが完全にバンドを離脱すると、新メンバーを補完してJefferson Starship(以下「JS」)として再離陸した。一度はバンドを去ったJAのオリジナル・メンバー=Marty Balinと和解し、完全復帰したJS二作目“Red Octopus”から、Balinがリードを歌う"Miracles"が全米3位を記録し、アルバム自体はJA時代も含めて、唯一の全米1位に4度輝いた。
JS名義で4枚のアルバムを発表後、バンドの二大ボーカリスト=Grace SlickとMarty Balinが相次いで脱退した。残されたPaul Kantnerはオーディションでボーカリストを募集し、Elvin BishopのGroupを辞めたMickey Thomasを迎えて、まさかのハード・ロック路線に転身した。一足早くブレイクしたJourneyのようなタイプの音楽だったので、渋谷陽一氏によって「産業ロック」と括られた。
やがて、Grace Slickが復帰し、ハイトーンのThomasとのツイン・リードは絶妙なハーモニーを生み、JSは二度目の最盛期を迎えた。ところが、Thomas加入後4作目にして、またしてもバンドは空中分解の危機に瀕した。結果的に、創始者のPaul Kantnerが下船し、残ったメンバーはStarshipとして発進した。
Paul Kantnerは、日本でも「ハート悲しく」の邦題で知られるソロ・ヒットを放ち、稲垣潤一のヒット曲を英語でカバーしたミニ・アルバムを日本のみで発表していたMarty Balinや、Hot Tuna解散後のJack Casadyに声を掛け、KBC Bandを結成し、Aristaからアルバムを1枚出した。これが1998年のJAの一時的な再結成に発展し、Starshipの解散を受けて、今日まで続く新生JSへと繋がって行った。
新生JSは、1994年についに初来日を果たした。SunHeroは仕事を休んで、渋谷On Air Westでのギグを観に行った。開場待ちの列が出来ていた外階段を、いきなり外人の一行が上がってきた。JSのメンバーとスタッフだった。気付いた客はメンバーと握手していたが、SunHeroは余りにも予想外の事に呆然と見送ってしまった。
1999年には、古い録音と思われる楽曲を含む15年振りのスタジオ録音盤“Windows Of Heaven”が発売され、六本木にオープンしたライブハウス=Sweet Basil 139(2014年クローズ)のオープニング・イベントの一環として、2度目の来日公演が実現した。スタジオ録音盤としては、他には2008年の“Jefferson's Tree Of Liberty”があるだけだが、ライブ盤は多数リリースしていて、買い漏らしているものが結構あるようだ。
2008年には、東京駅近くのCotton Clubで3度目の来日公演を行なったが、SunHeroはどうしても仕事が片付かず、当日夕方、電話で2nd Showをキャンセルした。当時勤め先のあった場所は、僅か二駅しか離れていなかったから、本当に悔しい思いをしたが、今回の訃報に際し、悔しさは何十倍、何千倍、いや、何億倍にもなった。
Jim Morrison、Jerry Garciaと共に、1960年代後半にサイケデリック・サウンドでフラワー・ムーブメントを牽引したPaul Kantnerは、そんな時代を結構哲学的に客観視していた感がある。そのカリスマ性で時代の寵児となるも、ジミ・ヘンやジャニスの後を追うように非業の死を遂げたJim Morrison、ヒッピー世代の心の拠り所として、いつの時代も変わらぬ音楽性を貫いたJerry Garciaとは違い、適度に時代と迎合しながら音楽活動を展開していたからだ。
もし、Paul Kantnerに何か拘りがあったとすれば、1970年代にJSとして商業的成功を収めた頃のような、女性ボーカリストを擁した大所帯のグループという編成だったように思う。そこで、自分は一歩下がってグループ全体を統率する。傍から見れば「目立たないリーダー」でいることが、一番居心地が良かったんじゃないだろうか?
そう思う根拠は幾つもあるが、今はまず心よりご冥福を祈りたい。黙祷‼
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