
そうは言っても、脚本が制作会社のGOサインをもらえるまでに2年掛かったそうだ。その後も様々なアチラの洗礼を受けたため、完成までに5年費やしたとか。道理で、ここ数年すっかり名前を聞かなくなった訳だ。ところが、ある日突然、映画館で「ラスト・ナイツ」の予告編が流れるようになり、監督自らがプロモーションのため積極的にメディア露出するようになった。その姿にはトゲトゲしいところは無く、実に雄弁に持論を展開する。かなり丸くなった印象を受けた。
前2作も面白い日本映画が出てきたものだといった程度だったので、いそいそと観に行った。公開から2週間以上経っていたが、前2作とは違って、そこそこ客が入っていた。前夜にネット予約したときには、前の方の席が2席だけ予約済みで、実質的に座席は選取り見取り状態だっただけに、キャパ110席程度に対して3割くらいの席が埋まっていたのには驚いた。
前作「GOEMON」は時代考証がメチャクチャなごった煮時代劇だったが、よく考えてみれば「ラスト・サムライ」や「47RONIN」など、ハリウッド産の時代劇だって、似たようなテイストだった。あんな脚本でも映画化されるハリウッドだから、紀里谷和明を受け入れる素地があったという訳だ。しかも、同じ「忠臣蔵」を題材にしながら、「47RONIN」よりも、まともなストーリーだった。
「武士道」を「騎士道」に置き換えるという発想が良かった。吉良上野介と浅野内匠頭の年齢設定が、「47RONIN」同様、「忠臣蔵」と逆転していたのは、紀里谷流のハリウッドへの敬意表明だったのかもしれない。あるいは、単に実際に脚本を手掛けたカナダ人が、あの映画の影響を受けただけなのかもしれない。いずれにせよ、前2作のような遊び心を排して、軸がブレなかったのは見事だ。
中世の世界観を描くことに関しては、現地スタッフの方が長けていただろうが、多国籍なキャスティングは恐らく監督の趣味が反映したものと思われる。主演のクライブ・オーウェンこそ、中世という時代に相応しいイギリス出身の俳優だが、モーガン・フリーマンはアメリカ人だということでは五十歩譲っても、(語弊のある言い方だが)黒人で主君役なんて、欧米的にはあり得ない設定だ。ましてや、韓国出身のアン・ソンギや日本人の伊原剛志までが登場となると、今度は欧米の観客が違和感を覚えることだろう。
そもそも、現実的な中世観を念頭に置くべきではないだろう。権力の横暴と不正が蔓延している架空の封建帝国における物語だと思えば、枚挙に暇がないほど沢山の類似映画が思い浮かぶ。ドラゴンが登場しないだけで、重厚なおとぎ話だったからこそ、ハリウッドでの映画制作が実現したのではないかと思う。(さらに、DMM.comが強力に支援している)
ちなみに、あれこれ調べていたら、制作会社のLions Gate Entertainment(ライオンズゲート)はカナダの会社で、アメリカのインディー映画会社を買収する形でアメリカに進出したそうだ。第78回アカデミー賞作品賞を受賞した「クラッシュ」(2005公開)は同社の制作で、2008年のホラー映画「ミッドナイト・ミート・トレイン」(原作:クライヴ・バーカー)では、「あずみ」(2003)や実写版「ルパン三世」(2014)等を手掛けた北村龍平を監督に起用していた。
何にせよ、ハリウッドの重層な濾過を経て、紀里谷和明は自分でも満足の行く、まともな映画が作れるようになったという訳だ。こうなると、次回作では逆に「GOEMON」のようなハチャメチャな設定の日本映画を撮って、例えば三谷幸喜と真っ向勝負でもしらたら、面白いんじゃないだろうか?
この記事へのコメント
SunHero
「ことよろ」です。
ふじき78
あけおめです。