最大の変更点は、主役が変わってしまったこと。アニメ版では「ムサシノSARU」というトライブに属する出口海だったが、映画では「ブクロWU-RONZ」のリーダー=メラになっている。その大役を演じたのが、園子温作品に初出演となった鈴木亮平だ。昨年の「HK/変態仮面」をご覧になっていれば、大したインパクトも受けないかもしれないが、朝ドラ「花子とアン」のヒロインの夫役のイメージしか知らないと、ブッタマゲルに違いない。
さらに、ストリート・カルチャーの代表的な産物がHip-Hopであることから、主要なセリフをラップにしてしまった。物語の進行役として新たに設けられて、至る所に出没するMC SHOWを演じた染谷将太が、全編ラップなのをはじめ、のりちゃん役の市川由衣ですら、短いフレーズながらラップを披露している。それどころか、準主役級の出口海を本物のラッパーであるYOUNG DAISが好演しているほか、多数のラッパーが出演している。
監督曰くところの「世界初のバトル・ラップ・ミュージカル」に仕上がっていた。その混沌とした世界観は、1960年代に大ヒットしたロック・ミュージカルの元祖「ヘアー」との類似性を想起させた。当時「Love & Peace」を掲げ、反ベトナム戦争・反社会的な若者たちはヒッピーと呼ばれ、個々のヒッピー集団は「トライブ」(族)と称されていたからだ。そうしたトライブの抗争を、反戦とは異なる視点から描いたのが、「ウェスト・サイド・ストーリー」だった。
ミュージカルは知らなくても、劇の冒頭とフィナーレを飾る曲をメドレーにして、Fifth Dimentionがカバーした「Aquarious〜Let The Sunshine In」は、聞いたことがあるんじゃないかと思う。Billboard Hot 100において、1969年の春に6週連続全米No.1に輝き、翌年のグラミー賞で「年間最優秀レコード賞」を獲得したからだ。
(おっと!ついオールド洋楽ファンの血が騒いでしまった。)
とにかく、映画は冒頭にどんなトライブがどういう地域を縄張りにしていたのか説明されるが、メラと海の関係が明らかになるのは終盤近くになってからだ。というか、メラが海に対して嫉妬していた根本原因が分ると、そんなことが東京中のトライブを巻き込んだ抗争の火種だったというオチには唖然とした。
否、実際には、そんなに単純なストーリーではない。メラを裏で操るヤクザのブッバ(竹内力)や、その背後にいる影の権力者=大司祭(でんでん)が東京に送り込んだ殺し屋のジャダキンスと通訳の亀吉、ブクロの風俗店で風俗嬢にさせられそうになる謎の美少女スンミ、ブッバとンコイの親子の確執などが入り乱れて、物語自体が理解不能になるほど混沌としていく。
WARUという新興勢力が乱入して来て、渋谷や新宿のトライブが窮地に追い込まれると、メラ率いるブクロWU-RONZ vs テラ率いるムサシノSARUという抗争の構図が、一時不鮮明になってしまうほどだ。そんなカオスこそが、園子温の描きたかった現代日本社会の風刺だったのかもしれないと思った。
序盤こそ絶大なインパクトを発揮していたメラの存在感は、物語が複雑化するに連れて薄れて行く。というか、見る側が慣れてくると言うべきかも?代って、存在感が増すのが、清楚な見た目からは想像もできない身体能力を発揮するスンミと、男子小学生にしか見えない相棒ヨンのコンビだ。ヨンを演じた坂口茉琴(まこと)は、実はレッキとした女子高生だそうだ。
だが、圧巻なのは、スンミを演じた清野菜名(せいのなな)だ。頭突き瓦割りのCMですっかり有名になった武田梨奈の最新主演作「少女は異世界で戦った」でも、美少女戦隊のメンバーとして活躍しているそうだ。どっちが先に撮られたのか定かではないが、本作ではパンチラ・シーンを連発しているだけでなく、パンティー1枚のヌードまで披露している。
最初の登場シーンでは一瞬「吉瀬美智子」かと思ったが、他の少女たちと共にブッバ邸に連れて来られたシーンでは、もっと若くて「桜庭ななみ」っぽい印象だった。園子温、また無名の女優を発掘したな!即座にそう思った。
どこぞの事務所にスカウトされたらしく、中学卒業を機に上京し、高校に通いながら芸能活動をスタートしたようだ。ミラ・ジョヴォヴィッチに憧れて、1年間アクションのトレーニングを積んで来たことが報われて、今回の大抜擢となった。それも、端役であっても出たい!という切実な思いから受けた2度目のオーディションで、見事スンミ役を射止めたそうだ。
清野菜名のプロフィールを調べていたら、井口昇監督&(本作にもブッバの娘役で出演し、得意のヌンチャクさばきを披露して、キルビルのパロディーをこなしている)中川翔子主演の「ヌイグルマーZ」にも出演していたようだが、それこそ端役だったのか、全く記憶にない。ともかく、「21世紀の志穂美悦子」の最有力候補じゃないだろうか?
『TOKYO TRIBE』 園子温監督&清野菜名インタビュー:
http://youtu.be/iUFY_0M6Rng
msn産経ニュース【シネマティックな人々】:「TOKYO TRIBE」清野菜名
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140831/ent14083112000002-n1.htm
日刊ゲンダイ:映画「TOKYO TRIBE」 ヒロイン清野菜名に聞いた“初脱ぎ”
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geinox/152966
感想:役を離れた清野菜名さんは、吉瀬美智子さんにも桜庭ななみさんにも似ていませんね!?
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