私の男 (2013日本 R15+)

「私の男」ポスター桜庭一樹の第138回直木賞受賞の同名小説を、「海炭市叙景」「夏の終り」の熊切和嘉監督が映画化したのが「私の男」だ。禁断の父娘関係を官能的に描いているため、年齢制限が付いてしまった。それどころか、話題のシーンの撮影は、わざわざ二階堂ふみが18歳になるのを待って行われたそうだ。ベネチア国際映画祭で染谷将太と共に最優秀新人賞を受賞した「ヒミズ」では、役柄同様の中学生だったんだから、女優としての早熟振りは、もはやモンスター級だ。

原作では時系列を過去へ遡っていく描き方をしているそうだが、映画では冒頭のシーンを除けば、物語の進行は奥尻島の震災から現在へ、時間の経過に従っている。だが、序盤で幼い花(山田望叶)と淳悟(浅野忠信)が運命的な出会いを果たす部分が丹念に描かれている割には、その後の展開はビュンビュンと時空を超えて行く。要は、二人の生活に他人が割って入って来ては、何らかの形で排除されてしまう。それ以外の二人の日常は、敢えて描かなくても分るでしょ?と言った感じだ。

ただし、どう想像力を働かせても、見当が付かなかったのが、東京へ出て来て文字通りゴミ屋敷に住んでいたはずの二人が、銀座の高級レストランで3年振りに再会するという終盤の展開。再会の理由は、花が淳悟に婚約者を紹介するためだが、あれだけ濃密な男女関係にあった二人が、なぜ3年間も別々に暮らすことになったのだろうか?

そもそも、淳悟が震災直後の奥尻島に来れたのは、海上保安庁に勤めていたという仕事上の理由だが、真の目的は花の家族の安否確認だったと思われる。避難所で明らかに職務を逸脱した行動を取っているからだ。放蕩三昧だったと推察される淳悟が「家族を作りたい」と言って、唯一人生き残った花を引き取った気持ちはよく分る。だが、淳悟の生い立ちと花の出生の秘密を知る紋別の町の世話人=大塩(藤竜也)は、一旦は「お前に家族は作れない」と猛反対するが、花を育てることで改心するかもしれないと、二人を見守ることにした。

紋別へ向かう車中で、山田望叶が演じる花が、小さな手で淳悟の指を握り締めるシーン、小学生の花がすがるような思いで取った仕草だと思った。だが、映画を見終えてから思い返すと、二階堂ふみにバトンタッチしてからの花と淳悟の、親子の愛情を超えた絆の強さの象徴的な第一歩だったように思えて来た。

中学生になった花(二階堂ふみ)が淳悟の指を咥え舐め回すシーンとオーバーラップした途端、監督の演出に怒りすら覚えた。小学生の女の子にナント破廉恥なことを演じさせたのかと!否、そういう連想をしてしまったSunHeroの方がオカシイのは、重々承知だ。望叶ちゃんも、いつか監督の真の意図が分かった時、あのシーンをどう思うのだろうか?

それにしても、奇遇だ。山田望叶は、現在放送中の朝ドラ「花子とアン」でも、幼少期の花子こと「はな」を演じていた。撮影は映画の方が大分先だったと思われるが、放送と上映の時期がこうも近いと、見る側としては何らかの必然性を求めずにはいられない気分になる。

話を元に戻そう。花がいつどうやって自分の出生の秘密を知ったのか、映画を見ただけでは分らないが、中学生の頃には遠い親戚ではなくて実父であることを承知で、淳悟を父としてだけでなく男として求めるようになっていた。だから、淳悟が付き合っていた郵便局の女性との仲を裂き、二人の深い関係を目の当たりにした大塩が花を淳悟から引き離そうとした時、花は強烈に拒み、罪を犯してしまう。その罪が暴かれそうになった時、今度は淳悟が同じ罪を犯してしまう。

そんな親子を超越した一心同体と言える関係だったのに、同じ穴のムジナの二人が別居したきっかけは、OLになった花の勤務先の専務の息子(高良健吾)が登場する「直前のエピソード」で、きちんと触れられていたのだろうか?流行のファッションに身を包んでいながら、他のOLにはない雰囲気に魅かれたボンボン育ちの青年が、酔っぱらった花を自宅へ送り届けた際に実生活を目の当たりにする。驚きや戸惑い・花の父親の異常行動に対する恐怖など、見事に演じていたが、うっかり見落としたのか、最終章との繋がりが釈然としない。

そもそも3年間の別居なんて設定は必要だったのか?この映画が一番大事なことは、題名が示す通り、娘の父親に対する異常な執着心だ。婚約者を引き合わせた席ですら、娘は普通に男を誘惑するように実父にアプローチする有様だ。きっと結婚後もしたたかに関係を続けるのだろうと思わせる終わり方だ。撮影当時17-8歳だった二階堂ふみは、中学生から大人の女性まで見事に演じ切った。改めて、末恐ろしい女優だと思った。

最後に、ひとつだけイチャモンを付けておく。話題のシーンで天井から血がしたたり落ちて、部屋中が血だらけになるという演出は、ミッキー・ローク主演の「エンジェル・ハート」からの流用だ。確かあの映画でも、実の親子がそうとは知らずに男女関係になるシーンだった。血縁関係にある者同士の情交を象徴するだけでなく、「R18+」指定を回避するためには適切な手法だったと思う。だって、ああいう落し所に持って行かなきゃ、観客の興奮度がポルノのレベルまで行ってしまうじゃないですか!

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私の男
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Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2014-11-14 06:58

『私の男』
Excerpt: □作品オフィシャルサイト 「私の男」□監督 熊切和嘉□脚本 宇治田隆史□原作 桜庭一樹□キャスト 浅野忠信、二階堂ふみ、高良健吾、藤竜也、モロ師岡、        河井青葉、太賀、相楽樹、三浦..
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Tracked: 2014-11-14 08:35

私の男
Excerpt: 原作は、直木賞を受賞した桜庭一樹の同名小説 時代時代によって、違うフィルム、というか画像で撮ってる映像へのこだわりが、インパクト。 この浅野忠信の役は、彼にしか出来ないかも、と思わせるもの..
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Tracked: 2016-07-12 14:46
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