「絶対領域」というのは、アイドル・オタクの専門用語にして、映画の中のアイドル・グループの名前。それをタイトルに据えた映画は、アイドルとファンの奇妙な交流を描いた一応「純愛」ドラマ。主演は、「地球防衛未亡人」で好演していた大野未来と、ミュージカル「テニスの王様」で大勢の女性ファンを獲得した平牧 仁という、若手の有望株二人。監督は、PFFアワード2010で「反抗」が入選し、本作が4作目となる堀内博志。
3人組アイドル・グループ「絶対領域」のリーダー=川島ミク(大野未来、役名も芸名も共に「みく」という訳)は、ライブ会場で自閉症気味のファン=片山マサキ(平牧 仁)と出会う。他のメンバーが握手に躊躇するも、ミクは他のファンと同じように普通に握手する。マサキは楽屋口でミクを出待ちするも、当人を前にして何も想いが伝えられない。女の子の振りをしてファン・レターを出すのが精一杯だった。
ミクは日常生活で何者かに付きまとわれ、恐怖を覚えて彼氏に電話をするも、全く電話に出てくれない。彼氏は突然ミクのアパートにやって来ては、ミクを抱くだけ。やがて、自分に付きまとっているのはマサキだと感づいたミクは、彼氏と一緒に歩いている時にマサキに遭遇し、マサキに対して「アイドルなのに、ガッカリしたでしょ?」と言い放つ一方で、彼氏に対しても「アイドルだから、私と付き合ったんでしょ?」と罵る。彼氏は「アイドルとやりたかったんだよ。」と捨て台詞を吐いて、ミクの許を去る。
この日を境に、ミクとマサキの距離はグッと近づき、マサキはミクが要る物を差し入れするようになる。一方、下心のある靴下メーカーの社長が「絶対領域」のスポンサーになるが、新作靴下(ニーハイ・ソックス)の試着を口実にミクを呼び出す。映画でははっきり描かれていないが、いわゆる枕営業みたいなもの。見兼ねたマサキが傷害事件を起こし、「絶対領域」は解散に追い込まれる。
何年か後に、とんかつ屋でバイトしているミクを、元マネージャーの男が偶然見つけて、面白いものを見せてやると、ショーパブに連れて行く。そこでミクはポール・ダンスに魅了され、練習を重ねてポール・ダンサーとしてデビューする。その間もマサキとは連絡を取り合っていたが、ミクが新たな人生を歩み出したのを見届けたマサキは失踪する。
二人の接点が非常に少ない映画だけに、特にマサキの側の描き方が単刀直入ではない分、1回見ただけではよく分からなかった。引きこもりでアイドル・オタクの少年が、事件を契機に更生施設に入れられたという概要は掴めたが、心情的な部分がイマイチ映画から伝わって来なかった。舞台挨拶こそが目的だったと思われる両隣の客は、ふと見れば共に寝ていた。
アイドルグループ「絶対領域」(吉田未來、大野未来、池田ショコラ)
だが、何よりも悲惨だったのが、上映後の舞台挨拶だった。明るくなった会場は、列によってはド真ん中が空席だったりして、半分くらいしか客が入っていない感じだった。舞台挨拶上映はチケットぴあが独占的にチケットを販売していたので、コンピューターで自動的に割り振られた席に、各自が真面目に座った結果だった。
どうしてこんな事になったのかと言えば、平牧 仁がドタキャンしたからだ。それを受けてチケットぴあが払戻しに応じたものの、日程的にキャンセル分の再販売が出来なかったため、空席だらけの初日上映回となってしまったようだ。初めから彼が登壇予定に入っていなかったら、もっとイイ席で見れたかもしれないし、彼のファンのためにチケットが取れなかった観覧希望者だって沢山いたはずだ。
平牧 仁はビデオ・メッセージを寄せていて、その中で何度もお詫びしていたが、彼のファンもドタキャンしたと思われる状況で、あんなもん流したところでムカつくだけだった。登壇した「絶対領域」のメンバーは、池田ショコラと吉田未來にとっては映画初出演、大野未来にとっては初主演だっただけに、異口同音に自分にとって大事な作品になったと、初日を迎えた喜びと抱負を語ったのが、可哀想で痛々しかった。
劇場側が機転を利かせて、HP上で当日券販売を緊急告知し、入場時にはチケットの席番に関係なく、前売券購入者から列記号(アルファベット)順に前から詰めて座らせるくらいの対応は出来なかったのだろうか?こんなにスカスカな舞台挨拶は初めてだった。
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