日フィルと言えば、実は2010年まで10年間、無料会員に登録していた。きっかけは2000年に府中の森芸術劇場で開催された演奏会に、村治佳織が客演したことだった。こんなことなら、もう2年会員でいればよかったと後悔した。奇しくも、当時も今も失業寸前の状況にある。将来への不安から来る情緒不安定な時期だからこそ、クラシック系の音楽は精神療法にウッテツケじゃないだろうか。
大変なのはSunHeroだけではない。日フィルも債務超過による経営難に喘いでいる。イベントの企画は高級ライブクラブ=Billboard Liveを運営する阪神コンテンツリンクのBillboard Classicsだが、背景にはポップス界とクラシック界の女性アイコンを担ぎ出して、日フィルの経済的救済の一助にしたいという目論見もありそうだ。こういう付け焼刃な企画は、やはり曲者だった。
コンサートは概ねクラシックの演奏会の作法に則って、二部構成で進行した。ロビーでは安藤裕子のコンサート・グッズやCD等の販売ばかりが目立っていたが、ステージでは安藤裕子が日フィルの演奏会にゲスト出演しているような印象だった。不慣れな状況にまごつく安藤裕子と、当然安藤裕子がイニシャチブを取って進行すると思っていたらしい西本智実、そんな二人のぎこちない関係は前半の演奏にも如実に反映してしまった。
至る所でタイミングが合わない。「エルロイ」がいい例だった。緊張感とダイナミズムで聴衆を圧倒するはずの楽曲で、オーケストラがバンド程の迫力もなく、ただ譜面通りに演奏しているようにしか思えなかった。音の強弱だけでなく、テンポにも緩急の抑揚があるのに、オーケストラは一定のテンポでどんどん先へ行ってしまい、タイミングを外された安藤裕子はただでさえ早口言葉のような歌詞を大急ぎで歌い切り、どうにか帳尻を合わせていた。
事前に十分な打ち合わせもなく、西本智実は第三者の編曲による譜面だけを頼りに、安藤裕子の曲のイメージを膨らませて行ったんじゃないだろうか?日フィル自体もポップス系や演歌系との共演も沢山こなしてきたはずだが、マイクを通して聞こえる安藤裕子の歌声に対して遠慮がちな音量だった。J-POPシンガーだから、適度に音に強弱を付けて、一定のテンポで演奏していればいいとでも思っていたなら、それこそ「勘違い」だ。
そもそも、ここは本当にオーチャード・ホールなのか?と疑いたくなるほど、オーケストラの演奏がストレートに響いて来なかった。2階席だったからなんて言い訳は、このホールに関しては許されないはずだ。暖房のせいでホール内の空気が淀んでいたことも影響していたようだった。まるで東京ドームで音楽を聞いているような息苦しさだった。開演前や休憩時間中に楽屋から漏れ聞こえてくる楽器の音の方が、よっぽど鋭敏に響いてきた。
歌と演奏が、すなわち、安藤裕子と西本指揮のオーケストラの関係が音楽的にギクシャクしたまま、第一部は終わり、休憩となった。お互いプロ同士だから、当日音合わせをすれば大丈夫くらいにしか思っていなかったんだろうか?ゲネプロを見せられているような感覚になって来て、第二部が始まる頃にはすっかり「金返せ!」という気分になっていた。
だが、後半に入ると、歌と演奏が徐々に化学反応を起こして融合していった。第二部は先に安藤裕子がバンドメンバーの山本隆二のピアノ伴奏で2曲、続いて西本智実が日フィルを指揮して2曲。まるで互いにそれぞれの本来のスタンスに立ち返って、基本を確認した感じだ。
そして、再び共演へ。第一部のような符割の細かい曲とかダイナミックな展開の曲から一転して、ドラマチックな展開の曲が並んだ第二部は、穿った見方をすれば無難な選曲とも言えるが、結果的にオーケストラとの波長がピッタリ合うようになってきた。
感動的だったのはアンコールだった。本編が結果的に双方手探りのウォーミングアップだったのは残念だが、日フィルの本領も遺憾なく発揮され、安藤裕子ものびのびと歌い舞っていた。こうなると、指揮者は西本智実のような著名人でなくても良かったとさえ思えてきた。本物のオーケストラとの共演は初めてという安藤裕子には、最初からハードルが高過ぎたようにも思う。
日フィル会員や西本智実ファンのようなクラシック音楽として、この共演を聞きに来た人達はどんな感想を抱いたのか興味がある。でも、そういう人達って、何らかの形でネット上で感想を綴っているのだろうか?
奇しくも、来月末には、今度はBONNIE PINKが新日本フィルハーモニー交響楽団と共演する。会場はステージ後方にパイプオルガンが鎮座する「すみだトリフォニーホール」ということで、これまたオーケストラ演奏向きのホールだ。SS席¥13,000~B席¥7,000という価格設定は、本格的なクラシックの演奏会仕様だ。これで、今回のような公開リハ程度のものだったら許さないぞ!😃
Billboard Classics presents
“安藤裕子×西本智実 スペシャル・プレミア・シンフォニック・コンサート”
Bunkamura Orchard Hall, Feb.28,2013
- ビゼー:アルルの女より「ファランドール」 (西村智実+日フィル)
- ニラカイナリィリヒ
- 私は雨の日の夕暮れみたいだ
- Green Bird Finger.
- ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ (西村智実+日フィル)
- エルロイ
- Lost Chlid,
- 海原の月
--15分休憩--- グッドバイ (安藤裕子 with 山本隆二)
- たとえば君に嘘をついた (安藤裕子 with 山本隆二)
- マスカーニ:「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲 (西村智実+日フィル)
- ドビュッシー:ゴリウォーグのケークウォーク (西村智実+日フィル)
- 地平線まで
- 隣人に光が差すとき
- 愛の季節
- 歩く
【アンコール】- 聖者の行進
歌唱: 安藤裕子、ピアノ伴奏: 山本隆二
指揮: 西本智実、演奏: 日本フィルハーモニー交響楽団
*クラシックの演奏会で有難いのが、演奏曲目が遅くとも終演後には発表されるということ。クロークの端にひっそりと掲示されていたのを目ざとく見つけた人達が群がっていたので、SunHeroもパチリッ!📷 振り向けばチラシも配布されていたので、一枚いただきました。だから、こんなに早くレポートできたという訳です。


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