トロン：レガシー （2010アメリカ）

1982年、ディズニーは世界初のCGを使った映画を公開した。それが本作の前章に当る「トロン」だ。実際にはまだまだ未熟だったCGの技術や手法に業を煮やして、得意のアニメでCGっぽい映像を演出した部分も多々あるようだ。

こうして出来上がった映画は、ディズニーらしからぬ映像とB級感漂う物語ゆえからか、評論家筋に酷評された。当然、興行成績も捗々しくなく、ディズニー映画は低迷し、会社存亡の危機（ディズニー・ワールド建設に際して勃発した株の買い占め騒動も一因）に晒された。社内にも疫病神と評する輩も居たという。

だが、1990年代に入って「美女と野獣」やら「アラジン」やら「ライオン・キング」やら、次々に大ヒットアニメを生んだ礎となっているのだそうだ。今やアニメもCGで作られるようになったが、その原点となったのが「トロン」だったということらしい。そもそもディズニーは、トーキー・アニメ、長編アニメ、カラー・アニメなど、次々に世界初を手掛けてきたチャレンジ精神あふれる会社だ。CGに果敢に取り組んだのも社風と言えるだろう。

そうは言っても、普通、そんな映画に続編が制作されることはない。「トロン」が再評価されるキッカケになったのは、「マトリックス」の世界的な大ヒットだった。革新的な撮影技術とCGを組み合わせた映像は、その後のアクション映画の在り方を大きく変えたが、物語の根底には「トロン」と共通する発想があった。コンピュータの内部を現実社会に準えて具現（映像）化したことだ。

SunHeroは「トロン」再評価の機運が高まってDVD化されたのを見てからのファンだ。第一印象は「B級感漂うストーリーに稚拙なCG」だったが、こんな映画が1982年に公開されていたという事実には驚嘆した。当時はポケコンと呼ばれたペンケースサイズのハードウェアが庶民の手に届くコンピュータ（プログラムを読み込ませるのも手入力だった）で、ファミコン登場前夜（1983年7月発売）のことだった。

余談だが、同じ頃に日本で「トロン」というOSの規格が研究開発されていたのは偶然だったようだ。こちらの「トロン」も（アメリカの嫌がらせで）長らく不遇の時代を強いられたが、携帯電話のOSとしてようやく陽の目を見ることになったのは、NHKのドキュメンタリー番組でご存知の方も多いと思われる。何となく、映画と似たような経歴だ。

一昨年の「アバター」で本格的な3D時代の到来が世界中の人々に浸透したが、本当はディズニーがそんなエポック・メイキングな映画を一足先に公開したかったのではないだろうか？「トロン：レガシー」を見て、CG映画の元祖＝ディズニーの面目躍如だと、強く印象付けられた。なぜなら、本作は「ディズニー デジタル 3-D」で作られた最初の新作映画だからだ。

いかんせん、物語自体がB級映画並みだ。そういう意味で一般大衆向きではなくて、ハッキリ言ってしまえば映像オタク向けだ。「マトリックス」の映像に魅了されたような人たちには諸手で歓迎されるだろうが、思わせ振りな宣伝に釣られて、予備知識無しに観たら退屈な映画かもしれない。陳腐なストーリーを最新CGを駆使して膨らませただけの見かけ倒しな大作と、バッサリ酷評する輩も居る。

「アバター」だって映像美ばかりで中身のない映画と評する輩がいるが、それは勧善懲悪とまでは行かなくても、何が本当の正義なのかを子供でも分かるように描いた単純明快さに起因していると思う。それは実はディズニーが数々の名作で描いてきた、謂わば「お家芸」だった訳だが、本作には残念ながら無い。ディズニーらしくないと言われる所以だ。せいぜい父息子の絆を盛り込むことで、前作より少々マシな物語になった程度だ。

恐らく「トロン」の熱狂的なファンは、ストーリーの奥深さなんて初めから興味が無くて、あくまでもCGの映像美を細部にまで渡って楽しむことに喜びを見出しているのではないだろうか？SunHeroも、どちらかと言えば、その部類の人間だ。映像的にどれほどスケールアップしているのか？この目で確かめたかった。最初は仕事納めの日に新宿辺りで見ようと思っていたが、仕事の都合で健康診断の日程を変更したら、降って湧いたようなチャンスに俄然観たくなった次第だ。

最大の見所はやはり「バイクレース」だろう。だが、臨場感が増した分、一体どうやって勝敗が決まるのか、分り難くなってしまった感じだ。今見ると稚拙な映像だと思われるだろうが、一作目の方がその点は分り易いはずだ。

「トロン」初心者なら素直に映像美を楽しむことに集中すれば、それなりに楽しめると思う。事前に映画の背景を予習しておきたいなら、レンタルでもして「トロン」を見ることをお勧めします。もしそれで「トロン」にハマれば、廃墟と化したゲーセンで電源を入れると、Journeyの曲が大音量で聞こえてきただけで、ゾクゾクするような興奮を覚えることだろう。サントラを手掛けたDaft Punkには申し訳ないけど。

正月映画として大仰に公開する作品だとは思えないが、トロンファンとしては続編が公開されただけで充分嬉しい。そして、「トロン：レガシー」がディズニー映画の新時代の幕開けを告げた映画として後々評価されるようになったら、こっそりほくそ笑んじゃうかも。(笑)

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