~~満島ひかり主演作連続上映記念~~ カケラ (2009日本) & 川の底からこんにちは (2009日本)

月刊満島ひかり (SHINCHO MOOK 127)東京渋谷の老舗ミニシアター=ユーロスペースで4~6月に亘って連続上映された満島ひかり主演映画を観て来た。GW中だったら二作まとめて見ることが出来たのだが、そんな先の予定など全く確認せず、4月に先に「カケラ」を見てしまった。というか、「川の底からこんにちは」(以下、「川底」)の前売券を買ったのは、「カケラ」を見た帰りだった。一年で一番忙しい時期なんかに映画を観に行くから、こういう要領の悪い結果になった次第だ。

「カケラ」は「愛のむきだし」で共演した安藤サクラの姉=安藤モモ子の監督デビューで、「川底」は「ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)出身の石井裕也監督のPFFスカラシップ(PFFがトータルプロデュースする長編映画製作援助システム)作品。未知数の監督と排泄物と母性に対する独特の拘りから映画ファンの間では好き嫌いがハッキリしている監督、それぞれの作風の中で満島ひかりがどんな演技を見せてくれるのかが、SunHeroにとっては最大の関心事だ。

kakera_poster.jpg「カケラ」は桜沢エリカの少女コミック「ラブ・ヴァイブス」が原作ということで、SunHeroは全くの門外漢。映画公式サイトだけが唯一の手掛かりだったが、チョット過激な言葉がポンポン飛び出して来るflashオープニングに期待し過ぎて、やや肩透かしを食らった感も無きにしも非ず。ただし、女性監督が男目線で描いたとしか思えない(=普通男性の前では見せない)女性特有の日常行動は、男性客にとっては珍しい光景でも、女性客には恥ずかしくて不快かもしれない。あれを男性監督が撮ったら、全女性の顰蹙を買ってしまうかもしれませんが。

レズビアンの一言では割り切れない微妙な女同士の愛情に、所詮はやりたいだけの彼氏との関係を絡ませたストーリーは、意外にドライに描かれていた。こういう彼氏と彼女の間で揺れ動く乙女心は、男性監督(あるいは脚本家)の方がもっとドロドロに演出するのかもしれない。安藤監督は実際にそういう泥沼にハマっている女性達に自分の状況を気付かせるために、役者が役になりきって葛藤する姿を意図的に冷たく突き放した感じで撮ったように思う。

実際、監督が様々なインタビューで、満島ひかりに対してはほとんど無視同然に演技指導をしなかった反面、中村映里子には事細かく演技に注文を付けたと語っている。彼氏と彼女の間で揺れ動く不安定な気持ちを満島ひかりが好演しているのは、監督に無視し続けられるという不安定な状況下で演技を強いられた賜物なのかもしれないし、中村映里子がなかなか自分を友達以上には思ってくれない満島ひかりの役に激しく当るのは、監督に限界まで追い込まれた成果なんじゃないかと思う。

ただし、SunHeroはこういうテーマの映画は苦手だ。問題点を整理してドライに描いてくれたから最後まで見られたようなもので、昼メロのようにダラダラドロドロとやられたら、途中から見ること自体が辛くなっただろう。人と人の感情のもつれは、異性間はもとより同性間だって当事者だけで解決するのは難しい。現実にそういう場面に何度も遭遇していると、映画でそこまでドロドロに描かなくてもいいよという気持ちになる。

傍目には最初からどう見ても彼氏と別れた方がいい訳だし、そういう方向へストーリーは向かって行くが、だからと言って彼女を選ぶことが正解なのかと問われると、SunHeroには分らない。分からないと言うより、そんな二者択一を迫られること自体が耐えられないと言うのが本音だ。

kawasoko_poster.jpg一方、「川底」は「中の下」あるいは「それ以下」の生活を強いられている人が多い「今」だからこそ、楽しめる作品だと思う。そういう意味では一年前に見た「インスタント沼」に相通じるテーマが根底にあると思う。つまり、人生どこかで奮起しなきゃドン底まで行ってしまう訳で、両方の映画から導き出せる結論は「何がきっかけで奮起するかはケース・バイ・ケースだ」ということだ。しかも、面白いことに、「川」と「沼」という共通項というか、関連性がある。

この二つの映画には他にも共通項があって、映画監督・舞台演出家・脚本家でもある岩松了が出演していた。このオッサン、「愛のむきだし」にも出演していて、好きな女優の映画を追いかけていたら、いつの間にかこのオッサンの下世話な役柄に親近感を覚えるようになった。オダギリジョーと麻生久美子という「時効警察」コンビを起用した映画「たみおのしあわせ」の監督が実はこのオッサン。SunHeroにはどうしても同一人物とは思えない。というか、何かヤバイ傾向だ(爆)。

本題に戻ろう。ジリ貧生活も脳天気に乗り越えていった「沼」に対して、むしろ「川」の方が泥沼にハマってしまっていて、そこ(底?)からの謂わば開き直りで道を切り開いている。当然、「川」の方が現実味があって説得力もある。お笑いコンビのマシンガントークのような軽妙な会話もコミカルで、客席の其処彼処から笑い声が上がった。見終わって、何だか少し気持ちが前向きになった感じがした。

やはり、石井監督ならではの作風に拒否反応が起きるかどうかが、この映画に対する評価の分かれ目だろう。SunHeroも正直ちょっと苦手かな?だが、その分を割り引いたとしても絶妙だったのが、主人公の5人目の彼氏であるバツイチ子連れ男の娘だった。後半に入って、血の繋がりの無い主人公との間に母娘のような絆が芽生えてくる過程で、この子役の演技が俄然輝き出して来る。
主人公の彼氏、幼馴染みと駆け落ち後バツイチ彼氏とその娘、主人公の実家に

とりわけ、不甲斐ない父親が主人公の幼馴染みと駆け落ちをする場面で、普通ならそれでも父親に付いて行こうとするはずなのに、如何にも子供らしい言葉で父親を非難し、子供の方から三行半を突き付けた格好になる。まだまだ保育園に通うような歳なのに、親離れ宣言をしてしまう姿に、思わずアッパレ!と音を立てずに拍手した。満島ひかりの熱演も、今回ばかりはこの子役に食われてしまった感じだ。

それにしても、満島ひかりは今やすっかり若手女優の中でも演技派のホープだ。「少林少女」では一体どこに出演しているのかサッパリ分からなかったというのに、ホント立派な女優に成長しましたね。

この記事へのコメント

  • SunHero [管理人]

    「単館系」の谷さんですね。実は時々「拝見」させていただいてました。正確には「参考」にさせていただいてました。もし何か気になる引用がございましたら、ご遠慮なくお叱り下さい。

    ユーロスペースでは石井監督の作品を連続、否、同時上映してますね。SunHero的にはあの作風、チョット苦手です。すみません。

    月刊~はファンなら買うべき・・・みたいですね。実は、「ユリ子のアロマ」も見てしまいました、ついでに。

    <追伸>
    トラックバックも歓迎です!
    2010年05月27日 09:40
  • 現在は、石井裕也監督で映画を
    はしごできる件。

    月刊満島ひかりは買ってしましました。
    結構良かったです。
    2010年05月27日 01:54
  • SunHero [管理人]

    クマネズミさん、コメント&TBありがとうございます。

    >TBが遅れてしまって申し訳ありませんでした。

    ちっとも遅くないですよ。お気になさらずに。

    >さすがに映画をよく見ている方の論評だな

    お褒めいただき、恐縮です。でも、「評論」なんて大したものじゃなくて、「感想文」程度のつもりです。(汗)

    「社歌」に触れなかったのは、実は書き忘れです。後から加筆しなかったのは、ご指摘の通り他の皆さんがこぞって取り上げていたからです。SunHeroって、その程度の奴ですよ。(苦笑)

    むしろ、クマネズミさんのレビューの方が、多くの示唆を含んでいて参考になります。
    2010年05月26日 12:16
  • クマネズミ

    SunHeroさん、TBが遅れてしまって申し訳ありませんでした。
    SunHeroさんのこの映画についてのレビューはとても面白いと思いました。皆が取り上げる「社歌」ではなく、むしろ、「インスタント沼」との対比とか、岩松了、それに「主人公の5人目の彼氏であるバツイチ子連れ男の娘」の方に注目されているのは、さすがに映画をよく見ている方の論評だなと思いました。
    2010年05月26日 05:39

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川の底からこんにちは
Excerpt: 石井裕也監督の最新作『川の底からこんにちは』を渋谷ユーロスペースで見てきました。  予告編を見て面白そうだなと思い、また今大活躍中の満島ひかりの主演作だということもあって、映画館に出かけてみた次第で..
Weblog: 映画的・絵画的・音楽的
Tracked: 2010-05-26 05:13
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